TPP協定交渉について

2015年3月1日
コミックマーケット準備会

 先月来、TPP協定での知的財産条項案における交渉が進んでいる旨の一部報道が行われております。特に、著作権侵害の非親告罪化導入等については、我々コミックマーケット準備会(以下、準備会とします)もその状況を大変憂慮しております。

 これまでも準備会は、TPPにおける著作権問題に関して慎重な対応をしてくださることを、様々なチャンネルを通じて関係する皆さんにお願いをしてまいりました。

 そのいくつかを例に挙げますと、2013年7月には、政府TPP対策本部のパブリックコメント募集に際して、ご意見をお送りさせていただき、非親告罪化導入等について、慎重な対応をお願いしました(下記参照)。

 2014年8月には文化庁のご依頼により、文化審議会・文化政策部会のヒアリングに参加致しました。同部会では、2020年をスポーツだけでなく文化芸術の力でも盛り上げていくための方向性のご検討をされており、その議論を深めるために様々な分野から広く意見を聴取したいということで、準備会にお声がけがありました。ヒアリング時の資料については文化庁のWebサイトにて公開されておりますが、この席上において、ファンアートに関する著作権上の問題とTPPをどう考えるのかについても、ご説明をさせていただきました。 (文化審議会・文化政策部会 ご説明資料

 いずれについても、TPPにおける著作権問題を考えるに当たってのご参考の一助にしていただければ幸いです。

 なお、2015年3月28日・29日幕張メッセにおいて開催される「コミケットスペシャル6〜OTAKUサミット2015」においても、コミックマーケットに関連したシンポジウムにおいて、本問題を論点の1つと考えていければと現在調整を行っております。また、「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」が現在呼びかけを行っている『TPP著作権条項に関する緊急声明』についても、賛同をさせていただきました。

 最後となりますが、我々準備会といたしましては、今後においても、現在の自由な表現活動を許容し、日本の表現文化に総体として有益となり、ファン活動が活発に行えるような環境が維持されることを改めて希望しております。


2015年3月13日(追記)

『TPP知財条項への緊急声明』への賛同について


 (「TPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラム」が本日行った緊急声明に関する記者会見において、コミックマーケット準備会が発表した声明を以下に記します。)

 コミックマーケットは、マンガやアニメのファンによる草の根の活動として始まり、現在は四十年の歴史を重ね毎回50万人を越える参加者が集う「場」になりました。我々が活動して来られたのは、日本の著作権者の皆さんが、アマチュアの表現者たちを後輩として暖かく見守ってくださったからです。日本の同人誌やアマチュア表現の文化は諸外国と違う歴史や形態を持っています。画一的な法制化によってこれまでの積み上げが危険にさらされることを心配しています。TPP協定交渉においては、日本の表現文化を今以上に育む形での合意がなされるよう、ご尽力頂ければと思い、TPP知財条項への緊急声明に賛同致しました。

 最後になりましたが、この機会を用意してくださった福井健策先生始めTPPの知的財産権と協議の透明化を考えるフォーラムの皆様に心より感謝致します。


(参考資料:政府TPP対策本部のパブリックコメントに募集に際し送付した文章)

TPP協定交渉に関する意見表明

2013年7月14日
コミックマーケット準備会

 この度は、発言を送る機会を頂きありがとうございます。TPP協定交渉参加は国家の運営に関わる大きな決断であると考えております。ご検討、非常に大変だと推察致します。担当される皆様のご努力に感謝致します。

 私たちコミックマーケット準備会は、TPP協定交渉に関しましてマンガ、アニメ、ゲームなどを愛する消費者、ファンの立場から危惧を抱いております。

 コミックマーケットは、マンガやアニメを愛好する人たちが集まって自作の本(同人誌)を頒布したりコスプレをするなどの交流を深める「場」として40年を越える歴史を持ち、その規模は一回の開催で約三万五千サークルが参加し、七万種類を越える作品が生まれ、五十万人がそれらの作品を求めて集まる程の巨大な活動として定着しております。結果、参加しているアマチュア作家の中から多くの名だたるプロ作家が生まれてきました。また、数多くの出版社、アニメ会社、ゲーム会社等にも出展頂いており、日本のコンテンツ界の裾野を広げる活動を行って来たと自負しております。

 国内においては、著作権者の皆さんに温かく見守って頂く事で回を重ねてきた我々コミックマーケットにとって、TPPによってこれまでの積み上げと無関係の画一化された基準が生まれることによる影響を考えないではいられません。

 報道等からTPPは米国型の著作権保護を想定しているような印象を受けております。中でも我々が危惧するのは「日米経済調和対話」の項目にあげられている「著作権期間の延長」「著作権侵害の非親告罪化」「著作権侵害の法定賠償金」が導入される事です。

 作家は、生まれたときから作家になる訳ではありません。

 先人の作品に触れ、愛し、模倣することから作品を作り始めるのが自然な流れです。諸外国では、その習作を他者に評価して貰う機会を作る事が難しいですし、製本して実際に本を作ってみること、対価を得て読者を知ること、全てが高いハードルを持っています。

 日本では、同人誌という低いハードルでプロになるための経験を積む事が出来ます。数多くの才能がプロの世界に到達し、海外でも高い評価を受ける作品を作っている現状は、自費で同人誌を作ってきた経験や、そこで得たチャンスと無関係ではないと思います。

 ファンが、自分の好きな作品を自分なりに解釈して、自分で描いて頒布し評価を受ける。このサイクルを壊す事は、アマチュア作家の活動を阻害し名作を生む可能性の芽を摘む事になりかねません。

 「著作権期間の延長」と「著作権侵害の非親告罪化」「著作権侵害の法定賠償金制度」は、これまで日本の著作権者とファンの間で生まれてきた調和や協調、そして共存共栄の関係に亀裂を入れることになりはしないかと不安を抱かざるを得ません。

 日本において著作権は「親告罪」でした。ファン表現は原作となる作品の模倣から派生する二次創作であり、パロディです。同人活動には優れたオリジナル作品もありますが、多くの作家の卵が最初に行うのは既存作品の二次創作です。これらの二次創作を実際に読者の厳しい目に晒し経験を積む事が出来るのは、日本において著作権者の皆さんが温かい目で後輩を見守り、支えてくださったからに過ぎません。万一、「非親告罪」とされたなら、これまでの関係は崩れ、著作権者が許容するしないに関わらずファン活動が大きく制限されてしまいます。また、「法定賠償金制度」は表現活動自体の萎縮を生みかねません。既存作品との類似自体が問題とされ、賠償金を課されるとしたら過去の作品に絵柄、内容等で近しいテーマを扱うこと自体に作家は危険を覚えることになります。日本では商業出版界においても、人気作品のパロディを他社の無関係の作品に挿入して特に許諾等は取らないというような事例は枚挙にいとまがありませんし、文化として受け入れられてきました。それが突然、第三者の認定によって著作権侵害だと指定され、犯罪にされるような自体になったとしたら、長い年月をかけて根付いた文化を枯らしてしまう結果を生みはしないでしょうか。

 ファンが技術を磨いて作家になっていく以上、一定のパロディやオマージュ、パスティーシュが発生するのは自然な事だと考えますが、我が国にはそれらを許容する明文化された規定はありません。すべてはあうんの呼吸で成長してきました。しかし結果的に、世界で一番多くのマンガ、アニメ、ゲーム作品を抱える日本のシステムこそが、作家、作品を育成する上で最も効率的なものあった事を示しているのではないかと思います。

 画一的な法制化で、日本の作家がこれまで積み上げてきた流れを否定してしまっては、世界的に競争力を持つ日本の素晴らしい作家、作品の魅力を減じてしまう可能性を感じます。現在の自由な表現活動を許容する社会状況を維持できる著作権のシステムが構築されることが、日本の表現文化全体に有益であると考えるからです。

 以上の事から、私たちコミックマーケット準備会はTPP協定交渉において、著作権問題に関して慎重な対応をしてくださることを希望いたします。

 現状の国内における状況を鑑みて、多くの出版社、著作権者、そして私たちファンの集まりに有益な交渉をしてくださることを望んで止みません。

ご検討の程、何卒宜しくお願い致します。


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